大塚家具のお家騒動は一応の決着を見た。
この1ヶ月間、世間の耳目を集めたのが大塚家具社長の大塚久美子氏(47)と同会長にして創業者の大塚勝久氏(71)の対立だった。株式会社大塚家具は1969年(昭和44年)、勝久氏が埼玉県春日部市に興した家具販売会社であり、訪問客の入店時に顧客名簿を作成させて販売員が店舗・商品案内をするという独特のスタイル(会員制)で業績を伸ばした。時代はバブル経済から第二次ベビーブーマー(団塊ジュニア)が結婚する1990年代。「嫁入り道具」として一生ものの高級家具一式をまとめ売りすることで大塚家具は最高益を挙げた(2001年)。
しかしその後はデフレ経済で高級家具は低迷の時代に入り、家具市場は低価格路線を進めるニトリやIKEAなどの新興勢力の手に移った。2009年、勝久氏は会長に退き、長女の久美子氏に社長職を譲った。勝久氏の手厚い顧客対応に対し、一橋大学経済学部出身で元富士銀行(現みずほ銀行)行員のカジュアル路線は同社の業績好転にはつながらず、むしろ売り上げを悪化させた。それを責める勝久会長に対して、久美子社長は営業利益がV字回復したことを主張して一歩も譲らない。勝久会長は一気に攻勢をかけ、2014年7月、久美子社長を解任し、自ら社長に復帰した。
勝久氏は久美子氏が進めた通販サイトなどを閉鎖し、会社を以前の販売手法に回帰させた。また勝久氏は久美子氏一派を粛清し、多額の宣伝広告費の計上した。しかし、そんな勝久氏の経営の結果、今期(2014年度)の営業利益が赤字に転落することが判明するや、久美子氏は反転攻勢に出た。2015年1月15日、久美子氏は「クーデター」により勝久社長を解任し、社長に復帰した。
スクープは早かった。1月18日、東洋経済は第一報を報じた(おそらく勝久氏側からのリークであろう)。2月25日、勝久会長は大勢の社員を従えて記者会見を開き、筆頭株主として株主総会で久美子社長解任を株主提案することを説明し宣戦布告した。翌2月26日、久美子社長はそんな勝久会長の手法を批判し、逆に勝久氏の会長解任を会社提案することを説明。両者は一歩も引かず、株主総会での決議に注目が集まった。株主による投票結果は久美子社長の圧勝。約半年に及んだお家騒動は決着した。
ここで勝久氏と久美子氏の言い分を客観的に裏付けるために、1993年以降の損益計算書を業績ハイライトとして見てみよう(単位は億円。株価は円。従業員数は人)。
データは上のようになっている。数値を細かく見て行きたい方はこの表を参照されたい。表からは会社の変遷が見えにくいのでこれをグラフ化してみた。まずは売上げと営業利益である。
2001年に売上げを700億円の大台に乗せ、また営業利益は最高益を記録した。その後、売上げこそ700億円前後を保つも営業利益は悪化する。特に2008年は急激に落ち込み、2009年には赤字を計上した。前後して久美子氏が社長に就任する。久美子社長の下でも売上げを伸ばすことはできなかったが、営業利益は確かにV字回復している。しかしそれにも限界があり頭打ちになると、2014年7月、勝久氏が復権する。しかしこれにより状況は悪化し、今年度は再び赤字に転落した。この結果を受けて久美子氏が「クーデター」を起こしたのである。
次に従業員数と人件費を見てみる。
業績好調の2002年まで従業員数は増加の一途を辿り、その後、営業利益の落ち込みにも関わらず、人員削減(リストラ)の行なわれた形跡がない。勝久氏の温情主義、同族会社のトップダウンの現れである。社長職が久美子氏に移った後もこの主義は引き継がれ、人員は増えないのに人件費はどんどんかさんで行く。低賃金の非正規社員を導入するのでなく、高度専門職の販売員を抱えた体制が続いたのであろう。
最後に広告費と株価を見てみよう。
業績を回復させるべく、久美子氏はリストラと非正規社員化の代わりに広告費を圧縮した。しかし今年度、勝久氏は広告費を再び大きく増加させた。
株価は1991年のバブル崩壊の後も上昇を続け、業績の右肩上がりを見た投資家は一気に資金を大塚家具に投入する。1999年、大塚家具の株価は空前絶後の29,400円(年度末終値。年初来高値は37,400円)をつける。その後は利益確定売りから、業績頭打ちを受けて株価は4,000円前後で安値安定。しかし、2008年の営業利益激減で株価は一気に売られ、1,000円を切る(底値は561円)。その後、新しい施策を打ち出した久美子社長の就任にも関わらず大塚家具の株は市場から見放されたが、今回のお家騒動で注目されると株価は一気に高騰。勝久氏、久美子氏の両陣営とも株の買い増しをして株価が上昇するのではないかという憶測が流れ、市場はこれに反応した。一般投資家はこの株価上昇の勝ち馬に乗るべく買いに走ったのである。株価は一時、2,000円をつけ、以前から大株主であったアメリカの投資ファンドは高値で売り抜け10億円を手にした(ファンドは久美子氏解任の2014年7月に目をつけていたようで、今回の株主総会の議決権は保有するが全株は保有していないという状況が生まれた)。その後、株価は現在、1,500円前後で推移している。
データで見る限り、勝久氏、久美子氏双方とも事実を述べている。勝久氏の言う最近の売り上げ低迷も事実であるし、久美子氏の主張する営業利益回復も嘘ではない。業績のどこを切り出すかである。争点はこれまでの業績を受けての今後の販売方針にあると報道されている。
問題が明らかになった1月の久美子氏の記者会見を見て私が思ったことは、
「ええ女やなぁ。ほんま、かぐや姫(家具屋姫)や。若い時は震えが来るようなベッピンさんやったんやろな。あと20歳、いや10歳、若かったら…いや47歳の今でも十分きれいや。
『ずっと好きだったんだぜ 相変わらずきれいだな
ほんと好きだったんだぜ 君は今もきれいだよ♪』」
同級生だったはずもないんだが。
「今でもええから言い寄られたら着いて行くなっ♪」
誰が言い寄るんだって?
「一橋経済卒で元銀行勤めか。やっぱ、スーツが決まってるわ。一橋やったら窓口のお姉さんやなくて、銀行の2階で個別相談してくれるお姉さんやな。相談したいなー♪」
もう銀行、辞めてるって。
「ほんま、博多人形みたいや。せやけどちょっとクールビューティー過ぎへんか。ロボットみたいや。ラブドールというか♡」
あー、ラブドールってこれこれ。
「へー、ずっと独身か。周りの男、何してたんや。まあ、この才色兼備は近寄りがたいわな。『俺なんかどうせ相手にされてないしさ。』て、他の女の子に行くもんや。ただでも一橋大の男子学生は同級生に怖れをなして女子大か近場の大学に走るて一橋大掲示板に書いてあったし。人気は聖心、津田塾、東京女子大か、近場の国立音大、成蹊大、日大らしいし。ま、男子学生なんて、世間ずれしていない女子大か、体目的で近場の大学、選ぶわな。」
住んでるのが近いと体が目当てってずいぶん短絡的だな。でも、一橋大学内のカップルは少ないってこと。
「一橋女子の言うこと言うたら、
『やっぱ、東大以外、大学じゃないっしょ。まあ、東工大でもがまんしたげるけどさぁ。近場の東京農工大って、何それ? 農耕してるイモでしょ。電通大? 電気屋のオヤジに用はないっつーのっ!』
そんな感じやもんな。農工大は農耕やないし、電通大も国立大学なんやけどな。一橋より偏差値がちょっと低いだけで相手にせえへんもん、大学時代に彼氏できへんはずや。」
一橋女子に対する偏見すごいな。合コンで相手にされなかったとか?
「久美子さん、銀行に入ってからもタカビーやったんやろな。何と言ってもバブル世代やもん。男を召使いみたいにしてたから、独身、貫くことになるんや。久美子さんから何か言ぅて来ても断ろっと。」
言って来ない、言って来ない。
さて、そんな久美子社長の販売方針であるが、巷間伝えられるニトリ・IKEAに対抗する低価格路線ではない。勝久氏によるネガティブキャンペーンで久美子氏の販売戦略は歪曲されている。勝久氏の高級路線、会員制販売一辺倒を改めてカジュアル路線、コストパフォーマンス重視の中価格路線への「進出」である。「転向」でもない。久美子氏、勝久氏、双方の言い分、すなわち販売方針の根拠を見る前に、大塚家具が市場を奪われたというIKEA(イケア・ジャパン)とニトリとの比較を見てみよう。
3社の基本データの概算値は以下の通りである。
売り上げ
営業利益
店舗数
従業員数 大塚家具
550億円
-40億円
16店
1,700人 イケア・ジャパン
670億円
60億円
7店
3,400人 ニトリ
3,900億円
630億円
310店
8,400人
大塚家具の不振に対して、IKEAとニトリは好調である。IKEAは7店しかないがいずれも巨大店舗であり、大塚家具の倍の人員を配している。ニトリは多店舗展開で圧倒的な売上げを上げている。
IKEAについて説明すれば、全世界12万人の従業員数を誇るスウェーデンの国際企業であり、海外で家具と言えばIKEAの一人勝ちである(スウェーデン語ではイケーア、英語ではアイキーア、日本語ではイケヤとなっているが、ここではIKEAと表記しておく)。販売形態は広大な売り場に低価格で多くの品を揃える。しかしこれが曲者である。広過ぎる店舗はなかなか目的の売り場に到達しないようになっている。客は相当な距離を歩かされ、客はそれを承知で目的の家具を買いに行くというよりも、ららぽーとのような総合ショッピングモールやディズニーランドに行く気分で店舗を訪れる。また、目的の家具を買っただけで帰る客はほとんどおらず、たいてい「ついで買い」をしてしまう。そのように仕組まれている。また、海外では当然の「客による持ち帰り・組立て」を日本でも踏襲しており、店側にそれをオーダーすると決して安くない送料・組み立て料を取られることになる。したがって、IKEAは低価格路線でなく、二重価格商売と批判されることも多い。
一方、ニトリは家具の製造から販売までを一手に行ない、「安かろう、悪かろう」の商品でデフレ時代に業績を伸ばした。実際、その家具は買った客が怒り出すほどいい加減に作られている。『とりあえず何でも良いか』という客が買って行くが、そういう客が多いのも事実である。家具の製造国は人件費が上がって来た中国でさえなく、ほとんどがベトナムである。また、国内人件費も非正規社員の活用で相当に抑えている。社員8,400人の内訳は非正規社員が6,000人とも7,000人とも言われる(IKEAは社員3,400人全員が正社員)。また、社長が胡散臭い。だいたい夢を語るカリスマ社長はろくなものではない。社長の掲げる「ロマンビジョン」(2003年策定の長期経営目標)は、2003年の100店舗・売上げ1,000億円を、2012年に300店舗・売上げ3,000億円にするというもので、これは実際に達成された。その裏で社員がいかに締め付けられたかは想像に難くないが、計画はさらに続く。2022年に1,000店舗・売上げ1兆円、2032年に3,000店舗・売上げ3兆円と社長の夢は続く。「社長の夢は私の夢じゃない」と言って自殺した他社の例もある。もちろん国内市場がこんなにあるはずもなく海外進出が必須であるが、すでにそれを果たしているIKEAはさておき、ニトリの海外出店は失敗につぐ失敗である。だいたいが社長に哲学がない。今年初めの「がっちりマンデー新年会」に好調企業の社長として初めて招待されていたが、番組の空気を読めず他の社長に「業績向上の方法を教えてくれ、海外進出の秘訣を教えてくれ」の一点張りで軽くいなされていた。そんなこと自分で調べて自分で考えろって。
翻って大塚家具を見ると、勝久氏の会員制販売高級路線一辺倒がデフレで行き詰ったのは確かである。久美子氏の中価格路線は正しいように見える。実はニトリはそこをうまくやっている。デフレ下ではひたすら低価格路線を貫いたが、顧客の所得調査の結果が数年前から二極化していることに目をつけた。すなわち、ニトリの購買層は年収200~300万円と年収700~800万円のふた山に分かれる。そこでニトリは路線変更し低収入層の切り捨てを行なった。くだんの新年会で他の社長から、
「ニトリさんはこの頃、CMの『お値段以上』じゃなくなってますよね。この頃、めっぽう高いじゃないですか。」
と指摘され、
「いやいや、ものが良くなってるんですよ。だからまだ『お値段以上』なんです。」
と応じていた。これは嘘ではないのかも知れない。かつての「安かろう、悪かろう」のイメージを払拭し、品質と価格を上げて来たとも考えられる。つまり、これが大塚家具の久美子社長の言う「中価格路線」である。大塚家具に先駆けてニトリはこの市場に切り込んで来たとも言える。IKEAも追随するだろう。
家具の中価格市場はこれから開拓される空白地帯である。50万円の一枚板のテーブルは買えないが、廃材合板で作ったかのような木目シール貼りの1万円テーブルは嫌だという客は多い。5~10万円は一枚板の家具を買える値段ではないが、その値段なら化粧板を表面に施したまともな合板製の家具が買える。そういった中価格帯市場で顧客争奪戦が始まる。その意味では、勝久氏の「ニトリ、IKEAを意識したらダメ。」というのは間違っている。中価格市場に進出するニトリ、IKEAを意識して勝たねばならないのだ。久美子社長は両社に先駆けてこの市場に目をつけたのである。
では、久美子氏が全面的に正しいかと言えば、否である。5年間の経営で久美子氏が出来たことと言えば、北欧インテリアの通販サイトおよび国内デザインオフィスとのコラボ通販サイトの開設、およびそのパイロットショップを青山と目黒に開店させたに過ぎない(これらはすべて勝久氏によって閉鎖された)。5年もあったのに中価格市場を開拓できなかったのだ。これは久美子社長の能力不足だけでなく、大塚家具の業態から来る制約であると指摘する識者もいる。つまり、ニトリやIKEAのような家具の製造・販売と違って大塚家具はあくまでも販売を生業とする小売である。中価格帯を攻めようにもそれなりの原価で仕入れられる製造者がない。小売専門店は所詮、蟷螂の斧。大塚家具が利益を上げられるのは高級品しかないという見方である。
勝久氏の高級路線も行き詰まりを見せ、久美子氏の中価格路線も進出困難。結局、大塚家具は手詰まりで将来はないというのがひとつの見立てである。本当のところはどうか分からない。久美子社長、勝久会長の下では青山と目黒のたった2店舗しか展開できなかったが、大塚家具の資産である全国16店舗を総替えする(高級品フロアを残しつつ)ことが勝久氏を追放した今後は可能かも知れない。仕入れ先にしても久美子氏はただ手をこまねいているだけではないだろう。勝久氏の下ではゆっくりとしか進められなかった輸入販売や国内デザイン家具製造者の取り込みに成功するかも知れない。今後、トップダウンの手腕が試される。
なお、私自身は大塚家具でバカ高い高級家具を買わないし、ニトリで胡散臭い家具を買うつもりもない。家族連れでごった返すIKEAの売り場で路頭に迷うのはまっぴら御免である。そこそこのものはリサイクル品を買う。ブックオフ系列のオフハウスを重宝している。3万円くらいのしっかりした椅子が1万円で買える。10万円のクローゼット(箪笥)が2万円で買える。中古なので中には物故品もあるかも知れないが気にしない。箪笥の中から貞子は出て来ないと信じているし、椅子ヤプーに体をつかまれることもないと思う。
一方、一枚板の高級家具を買う場合はCAPIC(Correctional Association Prison Industry Cooperation: 矯正協会刑務所作業協力事業)、つまり「塀の中」で作られたものを買う。家具を作っているのはいずれ名のある腕の良い職人だったりするが、その工賃はショバの相場でほとんどゼロである。桜の香り漂う総一枚板造りの高級本棚は、大塚家具では50万円するものがCAPICでは10万円で買えたりする。CAPICの通販サイトは品揃えが乏しいが、それは計画的に製品を製造できないからである。新しい職人さんを「塀の中」に入れる計画はなかなか立てられない。しかし「全国矯正展」という実地販売会が各地で開かれるので覗いてみると掘り出し物に巡り合うことがある。お薦めである。
以上の考察を受けて、先週金曜日に開かれた大塚家具株主総会に潜入した…人の音声隠し撮り実況中継を紹介しよう。私のツッコミも書き足す。
株主提案者勝久氏: クーデターによって1月28日、社長の座を奪われた大塚でございます。大変な努力をしてここまで来ました。私がやっていないと大塚家具だけじゃなく、業界全体がダメになってしまう。私に賛成して頂けたら有り難いです。
(自分の功績は事実だから聞いてあげるけど、「業界全体が」ってあなたの思い込みでしょ。)
久美子社長: 今回、このような混乱状態を生じたことに非常に社員もつらい思いをしております。また、お客様にも大変迷惑をおかけしておりまして本当に申し訳なく考えております。
(このタイミングで、混乱状態、社員のつらい思い、客の迷惑を持ち出すのはすべて勝久氏のせいだと言いたいわけね。丁寧な言葉の裏に剣があるあるなぁ。)
勝久氏: 久美子社長が経営をして成功できるかどうか聞きたいと思います。社員は私にやっていただきたくて来てるんです。日本だけじゃなくて世界中全国の技術を守るのは大塚家具と思ってやって来ましたが、ただこの大事な時にこんなクーデーターになられてお客さんみんな食い止めてしまった。
(社員が私に「やっていただきたい」ってどういう敬語だよ。「世界中全国」って何だよ。「クーデターになられて」って「私はクーデーターに遭って」っていう意味?「久美子氏はクーデターをなされて」っていう意味?「お客さんを食い止めた」もイミフ。)
久美子社長: 貴重なご意見、有難うございました。現在の市場の状況ということをきちんと認識した上で問題を解決すること、具体的な施策が重要だと考えております。このメンバーでしっかりとこれからの日本の家具市場を開拓して行けると確信しております。
(「貴重な意見」ねぇ。そんなことこれっぽちも思ってないくせに女狐だな。「このメンバーで」って、「勝久氏はイラネ」っていうことね。キツい女だなぁ。話、聞いてあげなよ。)
勝久夫人久美子社長母大株主千代子氏: 大塚千代子でございます。母親でございます。私もあの…創業者で一緒にやってまいりました。電車の中の宣伝のことですけども、下げましたね。本来なら1ヶ月半、車両や電車の中に下げるものを9日や10日で下げましたね。そういう、そういう、何て言うんですか。ご自分の将来性って言うんですか。会社に対する侮辱のようなものを平気でするっていうことが私には分かりませんでした。ここまで世界中の家具と日本の人達に努力した…
(唐突に電車の中吊りの話をしてどうすんだ。中吊りを取りやめたのと電車の中に吊るすのをどっちも「下げた」ってボキャブラリーが貧困。広告をやめたのが何で会社に対する侮辱なんだよ。それに久美子氏の将来性はこの際、関係ないでしょ。ツッコミどころ満載だけど全部聞いてるほどヒマじゃないよ。)
久美子社長: 恐れ入りますが、簡潔にお願いできますでしょうか。
千代子氏: 会長が…あの、あなた、内容を…(他の株主の冷笑にかき消される)
久美子社長: あの、明確にお願いできますでしょうか。
(久美子さん、お母さんにも厳しいのね。ま、分からないでもないけどさ。)
他の株主: 見苦しいっ!
千代子氏: 監査役にもあなた、どうにもならないことが、仕方ありませんね。会長ひとりでこの5年間…
他の株主: 退場!退場!
他の株主: そんな話、聞きたくないよっ!
(炎上して来たなぁ。ま、千代子氏は話をしない方が良いな。他の株主までカッカして、あったかいんだから~。)
久美子社長: もう少し簡潔にお願いできればと思いますので…
(まだ攻めるか。畳みかけて、親を親と思ってないな。)
千代子氏: でも、あの、聞いて頂きたいんです。
株主一同: わはははは。
他の株主: 退場!
(千代子氏はなぜ自分が笑われてるか分からないんだろうな。ある意味、かわいそうになって来ちゃった。まあ、年老いた母親に公の場で話をさせちゃダメだよ。)
久美子社長: どうぞ席の方にお戻りくださいませ。有難うございました。私と致しましては、今の株主様のおっしゃった事柄につきまして事実と異なる、あるいは誤解に基づくものが多数あったと思っております。頂いたご意見全般、心に留めまして努力して参りたいと思っております。
(「今の株主様」ねぇ。何だか悲しいねぇ。「あなたの言ってるのは違う」ってピシャリと言うんだ。「意見を心に留める」って自分だけイイ子ちゃんになるんだ。実際は無視するくせに。)
この後、他の株主からの質問・意見があり、中には娘と父ががっちり握手をして、
「ごめんなさい。これから大塚家具は最高の品質のものを最高のコストパフォーマンスで売って行きます。」
と新聞広告でも出せば飛躍できるんじゃないかという浪花節的な提案をする人もいたが、現代的な久美子氏には一考に値しないものだった。
勝久氏、久美子氏双方の提案説明、質疑応答の後、株主総会は投票に移る。勝久氏側は本人周辺(千代子氏ら)にフランスベッドが味方に付き、持ち株合計28.2%。対する久美子氏側は本人周辺(ききょう企画)が10%あまり、アメリカ投資ファンドが10%あまり、合計21.2%。勝久氏有利の戦況で残り50%強の浮動票の行方が注目された。結果は、
「勝久氏36%、久美子氏61%」
で久美子氏の圧勝。一般株主の8割以上、39.2%が久美子氏側についたのだった。勝久氏は会長の座を追われた。
今後は名実ともに久美子社長体制が敷かれるが、それとて安泰ではない。勝久氏は依然として筆頭株主であり、次の株主総会では久美子氏は投資ファンドの議決権を期待できない(ファンドは株を売り抜けている)し、頼みの綱のききょう企画は裁判係争中であり、その結果いかんによっては排除される可能性があるからである。その場合、両者のスコアは今回の浮動票が維持されると勝久氏36%、久美子氏39%となってどう転ぶか分からない。再び、久美子氏降格(退任)もあり得る。ゴタゴタはこれからも続く。
大塚家具「お家騒動」は何が問題だったのだろう。株主総会前に報道された勝久会長と久美子社長の路線対立は総会の雰囲気を見ると雲散霧消したようである。久美子氏は一貫して勝久氏と千代子氏を相手にしていない。娘は親を馬鹿にして取り合わない。親はろくな意見を言えない。こんな人達の意見を取り上げる方が無駄と思っても思われても仕方がない様子がうかがえた。
インテリエリートの久美子氏に対して、叩き上げの勝久氏、千代子氏夫婦。最も近い関係の両者は最も価値観が異なる人種であった。勝久氏の言う「私の教育が間違っていた」というのは半分正解であろう。幼少の頃、久美子氏は猛烈に働く勝久氏、千代子氏にほおっておかれたと言う。親が娘に金だけ与えてお嬢様学校に通わせ(かの白百合学園中学・高校である)、目と心を掛けないとこうなる。一橋大学から富士銀行時代にかけてまったく独自の価値観で生活し、やがて大塚家具に籍を置いても勝久氏とは同床異夢であっただろう。いったんは独立し、大塚家具に戻るつもりはなかったと言われる。久美子氏と勝久氏は血のつながった他人なのである。しかも親子の縁を理由に物事を要求する父、考えの異なる愚かな勝久氏は、久美子氏にとって唾棄すべき存在なのだろう。ある意味、勝久氏は久美子氏を娘として大切にしなかったし、久美子氏は父である勝久氏に感謝や尊敬の念を抱いていない。まったく不幸であるとしか言いようがない。
私の近所に老舗の和菓子屋があるが、うまく代替わりを果たしている。本店のみならず駅ビルに店舗を構えるそこそこの同族会社である。内情の一端を知ったのは、ちょっとしたトラブルに対して電話でクレームを入れた時のことだった。お客様相談係のような番号に電話をかけると応対したのはやや耳の遠いおじいさんだった。
「若いもんはおりませんが、必ず伝えますので。」
わざわざ老人を電話番に雇う会社はない。おそらく先代の主人なのだろう。年老いてさまざまな能力が衰え、今は職人仕事や経営から手を引いているが、電話番という身の丈にあった仕事をしている。私のクレームは数時間のうちに解決し、電話番の先代主人は確実にその責任を果たした。これなのだ。いずれ親は衰える。そもそも自分よりも能力が低いかも知れない。しかし先代の労苦を多とし、たとえ方針転換をするにしてもそのプライドを決して傷つけてはならない。子は親にそれなりの地位と仕事と責任を与えて厚く処遇すべきなのだ。うまく行ってる一般家庭でやってることである。同居しているなら老父に庭の手入れをさせる、老母に料理を任せる。別居しているなら老父母に幼い子供を預ける、成人した子供に生前贈与をさせる、などなど。
久美子氏に欠けていたのは勝久氏への情だったのだろう。仕事に私情を絡ませないというのは同族会社ではあり得ない。同族会社でなくても人事は多くの場合、業績でなく情で決まることが久美子氏には理解できていない、あるいは理解したくないのだ。これではうまく行くはずがない。男というのは単純である。自分のプライドが満たされれば会社の業績よりも自分に目が向く。社内報で自慢話をさせる、社史編纂で自分の功績を書いた豪華な化粧本を作らせる、店舗や商品に自分の名前をつけさせる、銅像を建てる。いくらでも男のくだらないプライドを満たす方法はあったはずである。
大塚家具の業績、同業他社との比較、販売戦略について考察したが、すべて株主総会のやり取りでふっとんだ。解決は容易でない、根っこは深いとはいえ、何のことはない。
大塚家具のお家騒動はただの親子げんかである。
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株主総会潜入取材と実況中継!大塚家具お家騒動全貌~業績と株価、ニトリ・IKEAとの販売路線比較~
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