p1/8
新型コロナ関連の大きなニュースが飛び込んで来る前に、7/12の記事以来書きそびれていたチョコチップクッキーの話を書いてしまおう。
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問題と答をひとつひとつ説明する。話はこうである。
有限会社多摩インターナショナル美食製菓工業第一青梅国際工場では1日に1,000枚のチョコチップクッキーを作っている。クッキー1枚当たり10個 (10g) のチョコチップが入るように材料を入れる。材料は以下の通り。
・薄力粉 10kg
・砂糖 5kg
・バター 3kg
・卵 2kg
・チョコチップ 10kg (10,000個)
1,000枚分の材料30kgをよく混ぜて焼く。そこで問題。
【問1】クッキー1,000枚中、チョコチップが10個入っているのは何枚か。
(A) 384枚
(B) 239枚
(C) 125枚
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p2/8
【答1】(C)。どんなによく混ぜても、チョコチップがちょうど10個入っているクッキーは案外少なく、たったの125枚である。
チョコチップの個数にはばらつきがある。このばらつきを計算によって求めることができるというのが確率・統計という数学のなせるワザである。この数学は高校では教わらない。主として大学の理工系学生が必要に応じて初年度に勉強する数学で、理工系でも有機合成化学科や航空工学科の学生は見たことがないかも知れない。むしろ、10m×10mの範囲を発掘して土器の数を数える考古学科の学生が卒論まぎわになって慌てて勉強したりする。
入っているチョコチップの数とクッキーの枚数をグラフにすると下のようになる。ちょうど10個のチョコチップが入っているクッキーはたったの125枚しかないが、チョコチップが5~15個入っているクッキーは922枚にものぼる。一方、チョコチップが6個以下しか入ってないアンラッキークッキーは131枚、14個以上入っているラッキークッキーは134枚もある。材料を十分に混ぜてもこんなふうにばらつくのが自然である。
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上のばらつき具合に反して、チョコチップがちょうど10個入っているクッキーが1,000枚中726枚もあったら、そこには何らかの作為が働いたということである。夜陰に紛れて誰かがこっそり工場に忍び込み、クッキー生地一枚一枚にチョコチップをちょうど10個ずつ入れたりしたということである。(そんなマメな人は誰だ!) クッキー1枚にチョコチップを10個入れたいという意図通りのことが頻繁に起こり過ぎても数学は見破ることができる。マメつながりで言うと、エンドウマメの遺伝研究で有名なメンデルの観察記録を後世の人が調べると、メンデルの法則が成り立つように作為的にマメを取捨選択したことが分かっている。メンデルは嘘をついたのである。
7/20の記事に書いた、
「1m×1m×1m (1,000リットル) の水槽にネオンテトラを1万匹入れたとき、1リットルの水をすくったら何匹取れるか」
というのも同じ問題である。1リットルにちょうど10匹入っている可能性は低い。取れるネオンテトラの数には決まったばらつきがある。1,000回すくってもちょうど10匹入るのはたったの125回というわけである。
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p3/8
ただし、ネオンテトラの代わりにメダカを入れてはいけない。メダカは均等に散らばることなく群れを作るからである。たいていの魚は捕食者による種の絶滅を防ぐために身を寄せ合う。群れを作らない種類の魚は少なく、一部の熱帯魚に限られる、というのはアクエリアムファンの常識らしい。メダカは群れを作るので1リットルの水をすくうと25匹、18匹などと大漁になったり、1匹、3匹と不漁になったりする。ネオンテトラのように群れないで散らばる魚に対してのみ上のグラフで表したばらつきが当てはまる。
昔からの唱歌に「メダカの学校」があるが、英語の、
「a school of Medaka (Japanese killfish) 」
で明治の賢人はschoolを「学校」と訳した。しかしこれは正しくない。魚に対してはschoolを「群れ」と訳す (「a school of fish」で「魚の群れ」)。メダカの群れはあっても、メダカの学校は川の中にない。そーっと覗いて見てもみんなでお遊戯していない。気のせいである。
上のグラフのようなばらつきを数学用語でポアソン分布と呼ぶ。ワタクシが馴染みの高級フレンチレストランで注文するポワソン・ア・ラ・トマテ・クレム (Poisson à la Tomate Crème、魚のトマトクリーム) のポワソン (ポアソン、Poisson、魚) である。そう、上のグラフは魚分布と呼ばれる。
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というのは大学で数学教師が100万回くらいやってるネタで、ポアソン分布はフランスの数学者ポアソンが考え出したものである。言い換えると、フランス版さかなクンが発見したのがポアソン分布だと言って良いだろう。
p4/8
長々と脱線してまだ1問しか説明してない。先を急ぐ。
1枚にチョコチップが10個くらい入っていると謳っても実際にはばらつきがあり、6個以下しか入っていないクッキーが1,000枚中131枚もあることを上に示した。100枚中13枚、10枚に1、2枚である。そうするとクレームを入れる消費者が出て来る。そこで、そのようなクッキーが10枚に1枚未満、1,000枚中100枚未満になるようにしたいと工場長は考える。たくさんチョコチップを入れれば良いと思うが、不必要にたくさん入れると材料費が高くなったと工場長は本社生産部長に叱られる。では、何個のチョコチップを入れるのが適切かというのが第2問である。
【問2】1,000枚のチョコチップクッキーを作る場合、1枚にチョコチップが6個以下しか入っていないクッキーが10枚に1枚未満になるようにしたい。それにはチョコチップを10,000個の代わりに何個入れれば良いか。
(A) 10,542個
(B) 11,861個
(C) 13,094個
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【答2】(A)。全体に入れるチョコチップ10,000個にたったの542個足せば、チョコチップが6個以下しか入っていないクッキーが10枚中1枚未満になる。つまり、クッキー1枚あたりの平均としてチョコチップを10.542個入れるのである。
追加で加えるのが542枚と少ないのは意外である。もちろん、10,542個を数えるのは難しいだろうから、重さでチョコチップを10.6kg入れれば良いということになる (10.55kgでも10.542kgでも良いが、そこまで細かく計れないことが多いので安全・安心のため10.6kgとする)。下に対応するグラフを示す。チョコチップを平均10個入れる場合のグラフと比べると、グラフの山が全体的に右にずれてチョコチップ6個以下のクッキーの枚数が減っている。
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なお、チョコチップを11,861個入れるとチョコチップ6個以下のクッキーが1,000枚中50枚未満、20枚中1枚未満になり、13,094個入れるとチョコチップ6個以下のクッキーが1,000枚中25枚未満、40枚中1枚未満になる。
p5/8
ここまでは工場長の立ち位置でチョコチップを何個入れるか考えて来た。あるいは、消費者対策の責任を持つ本社生産部長の立場とも言える。現場に細かく指示する小心者の社長の目線と言っても良いかも知れない。会長は、
「チョコチップは12kgでも13kgでも良いんじゃない。創業当時はなぁ…」
と昔語りを始めて息子の社長に叱られるものである。ともかく、ここからは消費者あるいは工場の製品検査員の立場で考える。何枚か食べて1,000枚のクッキーにどれだけチョコチップが入っているのかを推察して決定するというわけである。つまり推定である。そこで次の問題を考えよう。
【問3】チョコチップクッキー10枚を食べたところ、チョコチップの数は以下の通りだった。
12個、8個、10個、11個、10個、14個、11個、6個、11個、10個
平均10.3個である。1,000枚分の材料に何個のチョコチップを入れたか。
(A) 10,000個
(B) 10,300個
(C) 10,562個
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【答3】(B)。10枚の平均値10.3個を単純に1,000倍した10,300個が正解。
10枚食べてみてチョコチップの個数にそれなりのばらつきがあるから、
「あの生真面目な工場長ならきっちり10,000個入れたに違いない」
というのは邪推である。また、10,562個のように平均値からずれた数を言う人は変わり者かも知れない。素直に考えた10,300個が偏り無く推定した値である。(数学ではこれを不偏推定値と呼ぶ。← まんまやないかーい)
クッキー10枚食べることで材料にチョコチップが10,300個入っていると推定されるとは言うが、100%確実に10,300個入っていると言い切るにはクッキーを1,000枚食べる必要がある。これを全数調査と言う。つまり、誤差を0にするなら全数調査をする必要がある。しかし、それをしたら元も子もなくなる。売り物もなくなる。そこで、10枚を抜き取るというサンプル調査 (標本調査) をしたわけで、当然ながら結果は誤差を伴う。つまり、材料に入れたチョコチップはある範囲の数だと言える。100%確実というのは見込めないが、95%信頼できる確からしさで誤差や範囲を求めたい。68%の確からしさでも良いのだが、その場合は誤差が大きくていい加減なことしか言えなくなってしまうので95%という確からしさを設定する。そこで問題。
p6/8
【問4】チョコチップクッキー10枚を食べて入っているチョコチップを数えた調査結果、平均が10.3個の、
12個、8個、10個、11個、10個、14個、11個、6個、11個、10個
という結果から、95%の確からしさで1,000枚分の材料に入れたチョコチップの数の誤差 (範囲) を求めると、どのくらいになるか。
(A) 295個 (10,300±295個、10,005~10,595個)
(B) 614個 (10,300±614個、9,686~10,914個)
(C) 1,272個 (10,300±1,272個、9,028~11,572個)
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【答4】(C)。たった10枚のクッキーを食べたくらいでは、全部でチョコチップが10,300個 (平均で10.3個) 入っていると正確には言えない。誤差は1,272個もある。
10枚食べてみてチョコチップが6個しか入っていないアンラッキークッキーに当たったとしても、工場長がチョコチップを9,500個しか入れていないとクレームするのは正しくないし、ひょっとすると11,000個入れたのかも知れない。逆に、チョコチップが14個も入っているラッキークッキーに当たっても、工場長がたくさん入れてくれたと感謝する必要はない。やっぱり9,500個しか入れていないかも知れないのである。
上の答に示した誤差の大きさはサンプル調査の結果による。クッキー1枚当たりのチョコチップの平均が同じ10.3個であっても、サンプルのばらつき具合によっては誤差が大きくなったり、小さくなったりする。ばらつき具合はある定義にしたがって数値化することができ、上の調査結果では2.05個である。これに対して調査結果が、
8個、10個、9個、13個、8個、13個、11個、9個、12個、10個
だったとすると、平均は前と同じく10.3個だが、前と違ってチョコチップが6個、14個入ったクッキーが入っていない。つまり、サンプルのばらつき具合が小さく、数値化すると1.79個である。この結果から誤差を計算すると、1,272個でなくて1,110個となる。サンプルのばらつき具合が小さいと推定される誤差も小さくなるのである。そこで2回の調査結果から問題。
p7/8
【問5】チョコチップクッキー10枚を食べて入っているチョコチップを数える調査を2回くり返し、合計20枚の調査結果が、上の通り、
12個、8個、10個、11個、10個、14個、11個、6個、11個、10個、
8個、10個、9個、13個、8個、13個、11個、9個、12個、10個
だったとする。平均値は変わらず10.3個。ばらつき具合を計算すると1.93個である。このとき、95%の確からしさで評価したチョコチップ数の誤差 (範囲) はどのくらいか。
(A) 1,191個 (10,300±1,191個、9,109~11,491個)
(B) 1,018個 (10,300±1,018個、9,282~11,318個)
(C) 844個 (10,300±844個、9,456~11,144個)
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【答5】(C)。20枚食べたときの誤差は、10枚のときの1,272個や1,110個でなく、これらの平均の1,191個でもない。また、20枚のときのばらつき具合は、10枚のときの2.05個と1.79個の間の1.93個なのに誤差は844個にまで小さくなる。つまり、多くのサンプルを調べることによって、同じ程度のばらつき具合でも誤差はうんと小さくなるのである。
この調子で50枚食べれば誤差は500個くらいになるし、100枚食べれば誤差は300個くらいになる (正確な誤差の値は調査結果による)。誤差を小さくしたければ多くの調査をする必要がある。道理で製菓工場の製品検査員は太っているはずである。今の場合、1,000枚のクッキーのうち100枚食べて初めてチョコチップ数の誤差が3% (=300個÷10,000個) くらいになった。10枚食べた場合の誤差は11~13%くらいだったので、検査数を増やすことは大元の正確なチョコチップ数を推定する上で非常に大切なのである。
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p8/8
ということで、いきなり結論。
PCR検査数を絞っていては正確な新型コロナ感染者数は分からない。東京都の累積検査数20万件で都民1,400万人のうちの感染者数が1万人だなんてどれだけ信用できるか。誤差の方がずっと大きい10万人だって不思議はない (ひとつ前の記事参照)。1日の検査数が5,000件で新規感染者数が200人とか300人とかは実際の感染者数にほど遠く、毎日3,000人くらい感染しているはずである。ウイルスを保有して感染させる期間が2週間続くとすれば、この瞬間に感染させる人は5万人 (都民300人に1人) くらいいるのである。
感染拡大を防ぐには桁違いに多くのPCR検査が必要である。個人が外出を控えて感染しないように気をつけるだけでは新型コロナを封じ込められない。安倍政府・小池都政に反旗を翻す世田谷区では、検査数10倍を目標にすると言う。この「世田谷モデル」を提唱したのは、やっぱりあの東大先端科学技術センター名誉教授の児玉龍彦氏である。どこまで実現できるかは世田谷区長の保坂展人氏の手腕にかかっているが、安倍・小池を飛ばして、やる気と政治力を持つ自民党有力議員と連携しているらしい。
250億円かけて追加アベノマスク配ってんじゃない!
新宿歌舞伎町をパトロールしてんじゃない!
東京もんにもタンメンを喰わせろ!
そういう話である。(かな?)
新型コロナ関連の大きなニュースが飛び込んで来る前に、7/12の記事以来書きそびれていたチョコチップクッキーの話を書いてしまおう。

問題と答をひとつひとつ説明する。話はこうである。
有限会社多摩インターナショナル美食製菓工業第一青梅国際工場では1日に1,000枚のチョコチップクッキーを作っている。クッキー1枚当たり10個 (10g) のチョコチップが入るように材料を入れる。材料は以下の通り。
・薄力粉 10kg
・砂糖 5kg
・バター 3kg
・卵 2kg
・チョコチップ 10kg (10,000個)
1,000枚分の材料30kgをよく混ぜて焼く。そこで問題。
【問1】クッキー1,000枚中、チョコチップが10個入っているのは何枚か。
(A) 384枚
(B) 239枚
(C) 125枚

p2/8
【答1】(C)。どんなによく混ぜても、チョコチップがちょうど10個入っているクッキーは案外少なく、たったの125枚である。
チョコチップの個数にはばらつきがある。このばらつきを計算によって求めることができるというのが確率・統計という数学のなせるワザである。この数学は高校では教わらない。主として大学の理工系学生が必要に応じて初年度に勉強する数学で、理工系でも有機合成化学科や航空工学科の学生は見たことがないかも知れない。むしろ、10m×10mの範囲を発掘して土器の数を数える考古学科の学生が卒論まぎわになって慌てて勉強したりする。
入っているチョコチップの数とクッキーの枚数をグラフにすると下のようになる。ちょうど10個のチョコチップが入っているクッキーはたったの125枚しかないが、チョコチップが5~15個入っているクッキーは922枚にものぼる。一方、チョコチップが6個以下しか入ってないアンラッキークッキーは131枚、14個以上入っているラッキークッキーは134枚もある。材料を十分に混ぜてもこんなふうにばらつくのが自然である。

上のばらつき具合に反して、チョコチップがちょうど10個入っているクッキーが1,000枚中726枚もあったら、そこには何らかの作為が働いたということである。夜陰に紛れて誰かがこっそり工場に忍び込み、クッキー生地一枚一枚にチョコチップをちょうど10個ずつ入れたりしたということである。(そんなマメな人は誰だ!) クッキー1枚にチョコチップを10個入れたいという意図通りのことが頻繁に起こり過ぎても数学は見破ることができる。マメつながりで言うと、エンドウマメの遺伝研究で有名なメンデルの観察記録を後世の人が調べると、メンデルの法則が成り立つように作為的にマメを取捨選択したことが分かっている。メンデルは嘘をついたのである。
7/20の記事に書いた、
「1m×1m×1m (1,000リットル) の水槽にネオンテトラを1万匹入れたとき、1リットルの水をすくったら何匹取れるか」
というのも同じ問題である。1リットルにちょうど10匹入っている可能性は低い。取れるネオンテトラの数には決まったばらつきがある。1,000回すくってもちょうど10匹入るのはたったの125回というわけである。

p3/8
ただし、ネオンテトラの代わりにメダカを入れてはいけない。メダカは均等に散らばることなく群れを作るからである。たいていの魚は捕食者による種の絶滅を防ぐために身を寄せ合う。群れを作らない種類の魚は少なく、一部の熱帯魚に限られる、というのはアクエリアムファンの常識らしい。メダカは群れを作るので1リットルの水をすくうと25匹、18匹などと大漁になったり、1匹、3匹と不漁になったりする。ネオンテトラのように群れないで散らばる魚に対してのみ上のグラフで表したばらつきが当てはまる。
昔からの唱歌に「メダカの学校」があるが、英語の、
「a school of Medaka (Japanese killfish) 」
で明治の賢人はschoolを「学校」と訳した。しかしこれは正しくない。魚に対してはschoolを「群れ」と訳す (「a school of fish」で「魚の群れ」)。メダカの群れはあっても、メダカの学校は川の中にない。そーっと覗いて見てもみんなでお遊戯していない。気のせいである。
上のグラフのようなばらつきを数学用語でポアソン分布と呼ぶ。ワタクシが馴染みの高級フレンチレストランで注文するポワソン・ア・ラ・トマテ・クレム (Poisson à la Tomate Crème、魚のトマトクリーム) のポワソン (ポアソン、Poisson、魚) である。そう、上のグラフは魚分布と呼ばれる。


というのは大学で数学教師が100万回くらいやってるネタで、ポアソン分布はフランスの数学者ポアソンが考え出したものである。言い換えると、フランス版さかなクンが発見したのがポアソン分布だと言って良いだろう。
p4/8
長々と脱線してまだ1問しか説明してない。先を急ぐ。
1枚にチョコチップが10個くらい入っていると謳っても実際にはばらつきがあり、6個以下しか入っていないクッキーが1,000枚中131枚もあることを上に示した。100枚中13枚、10枚に1、2枚である。そうするとクレームを入れる消費者が出て来る。そこで、そのようなクッキーが10枚に1枚未満、1,000枚中100枚未満になるようにしたいと工場長は考える。たくさんチョコチップを入れれば良いと思うが、不必要にたくさん入れると材料費が高くなったと工場長は本社生産部長に叱られる。では、何個のチョコチップを入れるのが適切かというのが第2問である。
【問2】1,000枚のチョコチップクッキーを作る場合、1枚にチョコチップが6個以下しか入っていないクッキーが10枚に1枚未満になるようにしたい。それにはチョコチップを10,000個の代わりに何個入れれば良いか。
(A) 10,542個
(B) 11,861個
(C) 13,094個

【答2】(A)。全体に入れるチョコチップ10,000個にたったの542個足せば、チョコチップが6個以下しか入っていないクッキーが10枚中1枚未満になる。つまり、クッキー1枚あたりの平均としてチョコチップを10.542個入れるのである。
追加で加えるのが542枚と少ないのは意外である。もちろん、10,542個を数えるのは難しいだろうから、重さでチョコチップを10.6kg入れれば良いということになる (10.55kgでも10.542kgでも良いが、そこまで細かく計れないことが多いので安全・安心のため10.6kgとする)。下に対応するグラフを示す。チョコチップを平均10個入れる場合のグラフと比べると、グラフの山が全体的に右にずれてチョコチップ6個以下のクッキーの枚数が減っている。

なお、チョコチップを11,861個入れるとチョコチップ6個以下のクッキーが1,000枚中50枚未満、20枚中1枚未満になり、13,094個入れるとチョコチップ6個以下のクッキーが1,000枚中25枚未満、40枚中1枚未満になる。
p5/8
ここまでは工場長の立ち位置でチョコチップを何個入れるか考えて来た。あるいは、消費者対策の責任を持つ本社生産部長の立場とも言える。現場に細かく指示する小心者の社長の目線と言っても良いかも知れない。会長は、
「チョコチップは12kgでも13kgでも良いんじゃない。創業当時はなぁ…」
と昔語りを始めて息子の社長に叱られるものである。ともかく、ここからは消費者あるいは工場の製品検査員の立場で考える。何枚か食べて1,000枚のクッキーにどれだけチョコチップが入っているのかを推察して決定するというわけである。つまり推定である。そこで次の問題を考えよう。
【問3】チョコチップクッキー10枚を食べたところ、チョコチップの数は以下の通りだった。
12個、8個、10個、11個、10個、14個、11個、6個、11個、10個
平均10.3個である。1,000枚分の材料に何個のチョコチップを入れたか。
(A) 10,000個
(B) 10,300個
(C) 10,562個

【答3】(B)。10枚の平均値10.3個を単純に1,000倍した10,300個が正解。
10枚食べてみてチョコチップの個数にそれなりのばらつきがあるから、
「あの生真面目な工場長ならきっちり10,000個入れたに違いない」
というのは邪推である。また、10,562個のように平均値からずれた数を言う人は変わり者かも知れない。素直に考えた10,300個が偏り無く推定した値である。(数学ではこれを不偏推定値と呼ぶ。← まんまやないかーい)
クッキー10枚食べることで材料にチョコチップが10,300個入っていると推定されるとは言うが、100%確実に10,300個入っていると言い切るにはクッキーを1,000枚食べる必要がある。これを全数調査と言う。つまり、誤差を0にするなら全数調査をする必要がある。しかし、それをしたら元も子もなくなる。売り物もなくなる。そこで、10枚を抜き取るというサンプル調査 (標本調査) をしたわけで、当然ながら結果は誤差を伴う。つまり、材料に入れたチョコチップはある範囲の数だと言える。100%確実というのは見込めないが、95%信頼できる確からしさで誤差や範囲を求めたい。68%の確からしさでも良いのだが、その場合は誤差が大きくていい加減なことしか言えなくなってしまうので95%という確からしさを設定する。そこで問題。
p6/8
【問4】チョコチップクッキー10枚を食べて入っているチョコチップを数えた調査結果、平均が10.3個の、
12個、8個、10個、11個、10個、14個、11個、6個、11個、10個
という結果から、95%の確からしさで1,000枚分の材料に入れたチョコチップの数の誤差 (範囲) を求めると、どのくらいになるか。
(A) 295個 (10,300±295個、10,005~10,595個)
(B) 614個 (10,300±614個、9,686~10,914個)
(C) 1,272個 (10,300±1,272個、9,028~11,572個)

【答4】(C)。たった10枚のクッキーを食べたくらいでは、全部でチョコチップが10,300個 (平均で10.3個) 入っていると正確には言えない。誤差は1,272個もある。
10枚食べてみてチョコチップが6個しか入っていないアンラッキークッキーに当たったとしても、工場長がチョコチップを9,500個しか入れていないとクレームするのは正しくないし、ひょっとすると11,000個入れたのかも知れない。逆に、チョコチップが14個も入っているラッキークッキーに当たっても、工場長がたくさん入れてくれたと感謝する必要はない。やっぱり9,500個しか入れていないかも知れないのである。
上の答に示した誤差の大きさはサンプル調査の結果による。クッキー1枚当たりのチョコチップの平均が同じ10.3個であっても、サンプルのばらつき具合によっては誤差が大きくなったり、小さくなったりする。ばらつき具合はある定義にしたがって数値化することができ、上の調査結果では2.05個である。これに対して調査結果が、
8個、10個、9個、13個、8個、13個、11個、9個、12個、10個
だったとすると、平均は前と同じく10.3個だが、前と違ってチョコチップが6個、14個入ったクッキーが入っていない。つまり、サンプルのばらつき具合が小さく、数値化すると1.79個である。この結果から誤差を計算すると、1,272個でなくて1,110個となる。サンプルのばらつき具合が小さいと推定される誤差も小さくなるのである。そこで2回の調査結果から問題。
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【問5】チョコチップクッキー10枚を食べて入っているチョコチップを数える調査を2回くり返し、合計20枚の調査結果が、上の通り、
12個、8個、10個、11個、10個、14個、11個、6個、11個、10個、
8個、10個、9個、13個、8個、13個、11個、9個、12個、10個
だったとする。平均値は変わらず10.3個。ばらつき具合を計算すると1.93個である。このとき、95%の確からしさで評価したチョコチップ数の誤差 (範囲) はどのくらいか。
(A) 1,191個 (10,300±1,191個、9,109~11,491個)
(B) 1,018個 (10,300±1,018個、9,282~11,318個)
(C) 844個 (10,300±844個、9,456~11,144個)

【答5】(C)。20枚食べたときの誤差は、10枚のときの1,272個や1,110個でなく、これらの平均の1,191個でもない。また、20枚のときのばらつき具合は、10枚のときの2.05個と1.79個の間の1.93個なのに誤差は844個にまで小さくなる。つまり、多くのサンプルを調べることによって、同じ程度のばらつき具合でも誤差はうんと小さくなるのである。
この調子で50枚食べれば誤差は500個くらいになるし、100枚食べれば誤差は300個くらいになる (正確な誤差の値は調査結果による)。誤差を小さくしたければ多くの調査をする必要がある。道理で製菓工場の製品検査員は太っているはずである。今の場合、1,000枚のクッキーのうち100枚食べて初めてチョコチップ数の誤差が3% (=300個÷10,000個) くらいになった。10枚食べた場合の誤差は11~13%くらいだったので、検査数を増やすことは大元の正確なチョコチップ数を推定する上で非常に大切なのである。

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ということで、いきなり結論。
PCR検査数を絞っていては正確な新型コロナ感染者数は分からない。東京都の累積検査数20万件で都民1,400万人のうちの感染者数が1万人だなんてどれだけ信用できるか。誤差の方がずっと大きい10万人だって不思議はない (ひとつ前の記事参照)。1日の検査数が5,000件で新規感染者数が200人とか300人とかは実際の感染者数にほど遠く、毎日3,000人くらい感染しているはずである。ウイルスを保有して感染させる期間が2週間続くとすれば、この瞬間に感染させる人は5万人 (都民300人に1人) くらいいるのである。
感染拡大を防ぐには桁違いに多くのPCR検査が必要である。個人が外出を控えて感染しないように気をつけるだけでは新型コロナを封じ込められない。安倍政府・小池都政に反旗を翻す世田谷区では、検査数10倍を目標にすると言う。この「世田谷モデル」を提唱したのは、やっぱりあの東大先端科学技術センター名誉教授の児玉龍彦氏である。どこまで実現できるかは世田谷区長の保坂展人氏の手腕にかかっているが、安倍・小池を飛ばして、やる気と政治力を持つ自民党有力議員と連携しているらしい。
250億円かけて追加アベノマスク配ってんじゃない!
新宿歌舞伎町をパトロールしてんじゃない!
東京もんにもタンメンを喰わせろ!
そういう話である。(かな?)